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No.001

足にまつわる藻

96/06/20
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我が輩はゴキブリである。
随分永いこと大企業という建物の片隅をねぐらにし、家族と共に安楽に過ごして来た。
別に此処が天国と云うわけではない。一般家庭の様に、我々の姿を見ただけで、殺さば止まじとばかり追いかけ廻す人間も居ない。
比較的安泰な環境な為、つい長居をしているに過ぎない。こうして永い間、人間どもを見るともなく観察していると、我々の様な単細胞にも色々な事が分かって来る。


先ず人間は「共喰い」をする。世のため、人のため、会社のためと云う高邁な理想を掲げるのはさすが人間、と思わせるが毎日よく見ているとどうも、そればかりでは無い様だ。
「人間の世界には名誉、立身出世、権勢欲と云うものがあるのだよ」と誰だったか、我が先輩が教えて呉れたことがある。成る程、そうした見方をすると、それぞれの人間が何を考えて毎日、窮々と生きて居るのか、我が輩にも分かる気がする。


皮相的な見方だが、この世界の争いの要素には学閥、人脈、要領、実力、ごますり等があり、この要素を兼ね備え、それに運が絡んでこなければ出世は出来ない。
この中でも実力と実行力は「両刃の剣」の様だ。自分なりに先見性を持ち、信じ、強い信念で実行力を発揮しようとすると、人の立場や地位を脅かし、猛烈な反発を生む。
これに反しそれ以外の要素は妬みこそあれ、直接に人を傷つけない。つまり実力以外の要素をうまく使い奇妙なバランスを取って生きて行くのが最も出世の早道と云うことか。
どうやらこれが聞くところのサラリーマン社会と云うものらしい。


これとは反対に、真面目にこつこつと会社のために働いて居る人も多い。否、殆どの人がそうなのだが。
我が住みかのそばに随分永らく机を置いている人がいる。仮にa君としよう。a君は毎日忙しく本当に一生懸命に仕事をしている。ある時、我が輩がちょろちょろとa君の部長の机の下に入った時、それとは知らずa君の上司と部長が、こんな話合いををしていた。


「部長、a君の仕事は、売上も利益もそれなりには有るのですが、何分にも雑務が多く、それに他事業部の仕事なので当部の成果になりません。この仕事の扱いをどうしたら良いのでしょうね」と質問するa君の上司に対し、かの部長さんは「足に纏わる藻は切ることだよ」と平然と言い切った。さりとてこの部長はこの仕事を止めろなどとは一言も云っていない。つまり、a君一人だけに、何時までもやらして置き、自分は肝心なことをやれ、と云っている様だ。これを「属人的飼い殺し」と云うそうである。


熱意を持ち過ぎても潰され、目立たずこつこつやれば飼い殺し、小生は物置の隙間から眺めるだけに嫌な面だけが見えるのだろうか。


ゴキブリの社会では生きることに必死で他のゴキブリ仲間のことは構って居られないが、仲間を殺す様なことはしない。ところが、この社会では人間が人間をいびり、首を切り、精神的に同じ仲間を殺す事が平気で行われている。これが人間社会の生存競争と理解し、「人間は共喰いをする」と云う結論に達したのである。


こんな話は全く、キリが無いほど有る。最近は職場の環境整備とかで殺虫剤を多量に撒くと云う噂がある。そろそろ住みかをかえようか、もう少し観察を続けようかと悩んでいる。また、お会いしよう。

ごきぶり日記

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