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No.022

酒場と女性と

97/01/30
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<ゴキブリの前置き>
これは前出、「赤ゲット物語」「tさんのぶらりヨーロッパ」でお馴染みのmさんの話である。赤ゲット物語には、レストランに入って何を注文したら良いか分からず、適当にメニューを指さしたらビックな子豚の丸焼きが出て来て、周りがくすくす笑いだし、困った挙げ句、金を置いて遁走した話など、いろいろあるそうだが、未だ時期が悪いとのこと。
この話は「赤ゲット外伝」というところかな。

* * * この話は「赤ゲット」ではないんだよ。
そうかと云ってそんなに色っぽい話でもない。酒と女性は付き物だそうだが、寧ろこの話をしていると、妙にものの哀れを感じるんだよ。

アメリカは州によって違うが大体は店の女性が客の席に座ることを禁止しているところが多いそうだ。お国がら当然のことかも知れない。
たまには日本の、その昔のキャバレーのようなところもあるが、数日すると営業停止を喰らって無くなっている。東洋系の店だがね。

これはカリフォルニアのマウンテンビューでの話だが、スタンフォード大学も近い、ある所に日本人の経営しているカラオケスナックがあってね。
そこには日本人の若い女性が数人働いていた。
いま考えると、何故あの店だけが日本のスナックと同じように女性がいて接客が出来たのか不思議なんだが、まあ、そんなことはどうでも良い。
そこに日本から出張してきた同僚数人と飲みに行った時のことだ。

みしみしと音のしそうな2階の店は、ご多分に漏れず薄暗く、丸テーブルが幾つか置いてあるだけで、そこに不釣り合いな和提灯が店一杯につり下げてある。
客は和洋折衷だ。いろいろな人種がいるが、やはり日本人が多く、近在に永年住んでいる常連がいるらしい。
そのときも、60歳に近いと思われる女性客が居てね、アメリカ暮らし35年とか話していた。

友人がその女性と話し込んでいる。
派手な服装と厚化粧とマニュキァに深い皺が痛々しい。長いアメリカ生活の苦労が滲み出ているのだろう。
話し込んでいるうちに女性が身の上話を始めたんだよ。聞くともなく聞いていると、何でも若い頃、アメリカ人と恋愛し、渡米して幸せに暮らしていたそうだ。年月は過酷なものだ。段々と年を取るうちに女性の魅力も衰えてくる。その挙げ句はお定まりのように旦那は若いアメリカ女性に乗り換える。

阿修羅のような相剋(そうこく)があったと云う。分からないでもないね。
日本に帰りたいとしみじみ涙を流しているんだよ。
そのうちに女性が言い出した。「そうだ!あんた、アメリカに残りなよ。
私は美容院を三つも四つも持っている。あんたの一人くらい一生面倒見るよ」と、友人の二の腕を掴んで真剣な顔をしている。
これには流石にその友人も驚いた。何しろ女房、子供を日本に置いて、たかが1~2週間の出張で来たのに、突然、アメリカに残る話になってしまったんだからね。我々は面白がって、「そうだそうだ、それが良い!」と囃したが、いま考えると、アメリカで塗炭の苦しみを嘗めて来た女性の想いに、余りにも心ない仕草だったかなと反省している。

似たような話がサンフランシスコでもあった。
これは全く別の友人だが、ある一流ホテル、確かアトランタのピーチツリーストリートにあるウェスチンホテルだったと思うが。その友人がホテル内のピアノバーで飲もうと言い出した。
誰もが知っているように、薄暗いホールの一角のピアノの上にコップを置き、演奏している。リクエストがあればそのコップに1ドル程度のチップを紙幣で差し込む。それが彼らの、彼女らの全収入なのだ。

そのときは若い女性が弾いていた。友人は遊び人だが、アメリカの習慣を知らない。恐らくは日本の飲み屋の女性と同類に考えたのだろうね。
ポンとそのコップに20ドル紙幣を差したんだ。

暫く飲んで話をしているうちに、一曲終わったらしい。すると、かの女性がピアノを離れ、我々の席に来たではないか。こんなことは滅多にないんだ。
どうやら20ドルの威力らしい。私が暫く彼女のお相手をして話していた。

国や、名前は言えないが、果てることの無い内乱を繰り返す有名な所だった。
何故、彼女が此処にいるのか、どんな恐ろしい目に遭って来たか、どうやって逃げ延びて来たかを涙ぐみながら話す。
あるいはこれは彼女の商売上の演技だったのかも知れないね。でも真に迫っていた。

そのうち友人が怒りだしたんだ。何故かって? 何故なら彼は英語が分からない。だから20ドル払ったのは俺なのに、何でお前が彼女と親密な話をするんだ。ということらしい。愛だの恋だのを語らっていると思ったらしい。
話が余りにも生々しいので、私はつい、「黙ってろ!」と云い、話を聞き続けた。それ以後、その身の上話の内容をその友人には一切話していない。
いつかこの話を纏めて話すことにしよう。

アメリカの酒と女性の楽しい話をするつもりが、とんだ人生哀話になったね。

* * * <ゴキブリの読後感>
人間様なんて毎日が赤ゲットの連続なんじゃ無いかな。
赤ゲットの落ちで、その人を話の種や酒の肴にするのは、間違っていると思う。
赤ゲット物語の裏には人間のペーソスがあり、哀感が秘められている。
ゴキブリが生意気なことを云ったかな?

ごきぶり日記

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