No.039

続、物忘れ

97/06/30

[泥棒殿へ]
立て替え前の我が家は、空き巣の格好の狙い場でした。
我が家を除き、隣近所がそれぞれ百坪以上の敷地を持つ、比較的大きな家ばかりで、ここで育ったご近所の子供たちも既に成長し、巣立って行ったため、日中ですら、ひっそりと静まり返っています。

我が家は仕事の関係で日頃留守がちであり、その為、木々ものび放題となり、みどりの季節には木の枝をかき分け、緑のトンネルを潜って入る程、無精きわまりない状態でした。

ですから、空き巣の仕事場しては格好で、泥棒殿はこの木に隠れて、悠々と仕事をするんです。
一回目は奥まった便所の小さな窓から入ったようで、7つばかりある部屋の引き出しという引き出しを、すべて綺麗に開けっ放しにして帰りました。でも成果はありません。何故なら家には一銭も置いていないからです。

2回目は鬱蒼とした木の陰でリビングのガラス戸の角を三角に割り、うち鍵をはずして入る常套の手段でした。刑事さんが「私にも出来ますよ、やって見せましょうか」と云うくらい簡単な仕事だったのでしょう。
この時は第一回目の刑事さんのヒントに従って、よく目立つ所に3000円ばかり置いておいたのですが。

ガラスの破片から点々と血が歩いた方向に流れています。白いカバーの座布団には相当の血が、ひたたり落ちています。
きっと自分で割ったガラスの破片で、どこかに怪我をしたのでしょう。それでも前回同様に、すべての引き出しは開け放たれていましたっけ。

3000円はそのままになっていました。あまりにも目立つ所においてあったので何か、からくりがあるかと危険を感じたのかも知れません。

それからは、泥棒の入りそうな場所に、デカデカと、

       「泥棒殿へ
        この家には金目のものは一切、おいていない。
        無駄なことはしないように!」

と書いて張っておきました。この後は再び、入らなかったところを見ると、案外効果があったのかも知れないと今でも考えています。
一銭も取れず、血を流して帰ったのでは気の毒ですからね。

何の話でしたっけ?そうそう、物忘れのことでしたね。案外、この泥棒殿も、3000円を帰りに持って行こうと思ってトント忘れて帰ったのかも知れません。

ちなみに新居には警備保障を掛け以後、泥棒殿と縁を切りました。

* * *

<ゴキブリ後記>
泥棒にも物忘れがあるとはね。そういえば、へそくりを何処へ隠そうかと考えた挙げ句、ラップに包んで冷凍して、そのまま忘れてしまい、奥さんが冷蔵庫の掃除をしたとき発見して没収、という笑い話の持ち主もいた。
冷蔵庫は女の城だ。そこはいけないよ。

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